そのあくる日から、木村さんの家には、げんじゅうな見はりが立ちました。木村さんのところのふたりの書生と、うんてん手の栗田のほかに、明智たんていのぶかだというふたりの男がやって来て、五人で、かわるがわる、昼も夜も、木村さんの家のうち外を見回って歩くのでした。
たけしくんときみ子ちゃんは、それを聞いて、ふるえ上がってしまいました。また、あんなめに会うかもしれないと思うと、おそろしくてたまりません。
たけしくんときみ子ちゃんの学校へ行くときは、書生がついていくことになりました。それに、昼間のにぎやかな町を通るのですから、学校の行き帰りは、まず、だいじょうぶでした。
おとうさんの木村さんは、一間にとじこもったきりで、なにか考えごとをしていて、ごはんも自分のへやに運ばせ、茶の間には、すがたを見せないのです。
ですから、たけしくんやきみ子ちゃんは、おとうさんの顔を見ていません。
ところが、おとうさんが、明智たんていじむ所へ行ってからふつかめのことです。
たけしくんは、夜おそく、お手あらいへ行った帰りに、ろうかで、ひょっこり、おとうさんに出会いました。
おとうさんは、わふくすがたで、うす暗いろうかを、こちらへ歩いてきたのですが、たけしくんのすがたを見ると、はっとしたように立ち止まって、じっとたけしくんの方を見つめているのです。
たけしくんも、それにつられて立ち止まってしまいました。そして、こちらも、じっとおとうさんの顔を見つめました。
木村さんの目は、おそろしくぎらぎら光っていました。ぞっとするような、こわい目です。
それは、おとうさんにちがいないのですが、なんだか、えたいの知れないかいぶつにでも出会ったようで、すこしも親しみがなく、ただ、おそろしいばかりでした。
たけしくんは、しばらくにらみあっていたあとで、そのままものもいわないで、にげるように自分のへやへかけこんでしまいました。
「へんだなあ。おとうさんが、あんなおそろしい顔をしているのは、はじめてだ。おとうさんは、病気なのかしら。それとも……」
たけしくんは、ベッドにはいって、そのことばかり考えていました。あのおとうさんのこわい目が、どうしてもわすれられなかったのです。考えているうちに、だんだんおそろしくなって、からだが、がたがたふるえてくるのでした。
そのあくる日、たけしくんは、学校へ行っても、おとうさんのこわい目のことばかり考えていました。
学校から帰っても、やっぱりおとうさんのことが気にかかるので、そっと、おかあさんにたずねてみますと、おかあさんも、へんな顔をして、
「パパは、しょさいにいますよ。どうなすったのかしら。だれも来てはいけないって、へやをしめ切って、とじこもっていらっしゃるのよ」
といわれるのでした。
たけしくんは、しょさいへ行ってみました。そして、ドアの外から、「パパ」とよんでみました。しかし、返事がありません。ドアをあけようとしましたが、中からかぎがかけてあるらしく、すこしも動きません。
「パパ……、パパ……」
二度も三度もよびましたが、なんの答えもありませんので、たけしくんは、ドアのかぎあなに目を当てて、中をのぞいて見ました。
すると、しょさいにおいてある金庫の前にうずくまっているおとうさんの後ろすがたが見えました。
金庫のとびらが、開いています。そのとき、おとうさんが、すこしよこ向きになったので、手に持っているものが見えました。それは、金色のほうせきばこでした。そのはこが開いて、美しいほうせきが、きらきらとかがやいているのが、こちらからも見えました。
なんだか、へんです。おとうさんが、まるでどろぼうみたいに、人目をしのんで金庫を開き、ほうせきばこを取り出してながめている様子が、どうもへんです。
たけしくんは、それを見て、はっとしたひょうしに、思わず、カタッと音をたててしまいました。
すると、その物音を聞きつけたおとうさんが、ひょいとこちらを向いたのです。
ああ、その目……。
へびのような、きみの悪い目が、ドアのかぎあなを見つめているのです。その外から、たけしくんがのぞいていることを、ちゃんと知っているのかもしれません。
たけしくんは、ぞうっとしました。おとうさんが、あんなきみの悪い目をしているはずがないと思いました。ひょっとしたら、あれは、ほんとうのパパではなくて、なにかおそろしいまものが、パパに化けているのではあるまいかと思いました。
たけしくんは、そのまま、かぎあなの前をはなれて、自分のへやににげ帰りましたが、むねがどきどきしました。けれど、このことは、だれにも話せません。おとうさんが、まものだなんて、きみ子ちゃんにも、おかあさんにも、いえないのです。たけしくんは、どうしたらよいのか、わけがわからなくなりました。
たけしくんのおとうさんは、いったい、どうしたのでしょう。まものにみいられたとでもいうのでしょうか。それとも……。
そこには、じつにおそろしいひみつがかくされていたのです。
そのひみつが、少年たんていだんの力でわかってくるのです。そして、いよいよ、名たんてい明智小五郎や小林少年の大かつやくが始まるのです。