← Library‹ ふしぎな人 9 おそろしい目

そのあくる日ひから、木村きむらさんの家いえには、げんじゅうな見みはりが立たちました。木村きむらさんのところのふたりの書生しょせいと、うんてん手しゅの栗田くりたのほかに、明智あけちたんていのぶかだというふたりの男おとこがやって来きて、五ご人にんで、かわるがわる、昼ひるも夜よるも、木村きむらさんの家いえのうち外そとを見回みまわって歩あるくのでした。

たけしくんときみ子こちゃんは、それを聞きいて、ふるえ上あがってしまいました。また、あんなめに会あうかもしれないと思おもうと、おそろしくてたまりません。

たけしくんときみ子こちゃんの学校がっこうへ行いくときは、書生しょせいがついていくことになりました。それに、昼間ひるまのにぎやかな町まちを通とおるのですから、学校がっこうの行いき帰かえりは、まず、だいじょうぶでした。

おとうさんの木村きむらさんは、一間ひとまにとじこもったきりで、なにか考かんがえごとをしていて、ごはんも自分じぶんのへやに運はこばせ、茶ちゃの間まには、すがたを見みせないのです。

ですから、たけしくんやきみ子こちゃんは、おとうさんの顔かおを見みていません。

ところが、おとうさんが、明智あけちたんていじむ所しょへ行いってからふつかめのことです。

たけしくんは、夜よるおそく、お手てあらいへ行いった帰かえりに、ろうかで、ひょっこり、おとうさんに出会であいました。

おとうさんは、わふくすがたで、うす暗ぐらいろうかを、こちらへ歩あるいてきたのですが、たけしくんのすがたを見みると、はっとしたように立たち止どまって、じっとたけしくんの方ほうを見みつめているのです。

たけしくんも、それにつられて立たち止どまってしまいました。そして、こちらも、じっとおとうさんの顔かおを見みつめました。

木村きむらさんの目めは、おそろしくぎらぎら光ひかっていました。ぞっとするような、こわい目めです。

それは、おとうさんにちがいないのですが、なんだか、えたいの知しれないかいぶつにでも出会であったようで、すこしも親したしみがなく、ただ、おそろしいばかりでした。

たけしくんは、しばらくにらみあっていたあとで、そのままものもいわないで、にげるように自分じぶんのへやへかけこんでしまいました。

「へんだなあ。おとうさんが、あんなおそろしい顔かおをしているのは、はじめてだ。おとうさんは、病気びょうきなのかしら。それとも……」

たけしくんは、ベッドにはいって、そのことばかり考かんがえていました。あのおとうさんのこわい目めが、どうしてもわすれられなかったのです。考かんがえているうちに、だんだんおそろしくなって、からだが、がたがたふるえてくるのでした。

そのあくる日ひ、たけしくんは、学校がっこうへ行いっても、おとうさんのこわい目めのことばかり考かんがえていました。

学校がっこうから帰かえっても、やっぱりおとうさんのことが気きにかかるので、そっと、おかあさんにたずねてみますと、おかあさんも、へんな顔かおをして、

「パパは、しょさいにいますよ。どうなすったのかしら。だれも来きてはいけないって、へやをしめ切きって、とじこもっていらっしゃるのよ」

といわれるのでした。

たけしくんは、しょさいへ行いってみました。そして、ドアの外そとから、「パパ」とよんでみました。しかし、返事へんじがありません。ドアをあけようとしましたが、中なかからかぎがかけてあるらしく、すこしも動うごきません。

「パパ……、パパ……」

二に度ども三さん度どもよびましたが、なんの答こたえもありませんので、たけしくんは、ドアのかぎあなに目めを当あてて、中なかをのぞいて見みました。

すると、しょさいにおいてある金庫きんこの前まえにうずくまっているおとうさんの後うしろすがたが見みえました。

金庫きんこのとびらが、開ひらいています。そのとき、おとうさんが、すこしよこ向むきになったので、手てに持もっているものが見みえました。それは、金色きんいろのほうせきばこでした。そのはこが開ひらいて、美うつくしいほうせきが、きらきらとかがやいているのが、こちらからも見みえました。

なんだか、へんです。おとうさんが、まるでどろぼうみたいに、人目ひとめをしのんで金庫きんこを開ひらき、ほうせきばこを取とり出だしてながめている様子ようすが、どうもへんです。

たけしくんは、それを見みて、はっとしたひょうしに、思おもわず、カタッと音おとをたててしまいました。

すると、その物音ものおとを聞ききつけたおとうさんが、ひょいとこちらを向むいたのです。

ああ、その目め……。

へびのような、きみの悪わるい目めが、ドアのかぎあなを見みつめているのです。その外そとから、たけしくんがのぞいていることを、ちゃんと知しっているのかもしれません。

たけしくんは、ぞうっとしました。おとうさんが、あんなきみの悪わるい目めをしているはずがないと思おもいました。ひょっとしたら、あれは、ほんとうのパパではなくて、なにかおそろしいまものが、パパに化ばけているのではあるまいかと思おもいました。

たけしくんは、そのまま、かぎあなの前まえをはなれて、自分じぶんのへやににげ帰かえりましたが、むねがどきどきしました。けれど、このことは、だれにも話はなせません。おとうさんが、まものだなんて、きみ子こちゃんにも、おかあさんにも、いえないのです。たけしくんは、どうしたらよいのか、わけがわからなくなりました。

たけしくんのおとうさんは、いったい、どうしたのでしょう。まものにみいられたとでもいうのでしょうか。それとも……。

そこには、じつにおそろしいひみつがかくされていたのです。

そのひみつが、少年しょうねんたんていだんの力ちからでわかってくるのです。そして、いよいよ、名めいたんてい明智あけち小五郎こごろうや小林こばやし少年しょうねんの大だいかつやくが始はじまるのです。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%