ふたりは、それを見ると、きゃあっといって、だきあったまま、たおれるようにしゃがんでしまいました。
「うふふふ……」
そのとき、へんなわらい声が聞こえてきました。へやの中からです。へやの中には、とらのほかに、だれもいません。では、とらがわらったのでしょうか。
ああ、わらうとら。お化けのようにわらうとら。
たけしくんときみ子ちゃんは、ぞうっとして、気が遠くなるような思いでした。
「うふふふ……。たけしときみ子、しばらくだったなあ。おれがだれだか、わかるかね」
ふたりは、そのきみの悪い声に、聞きおぼえがありました。二十めんそうです。あいつの声です。
「おれは、へんそうの名人だ。人間ばかりでなく、どんなものにも化けられるんだ。もうじゅうにだって、化けられるんだよ」
まるで、人間のように、あと足で立ちあがったとらが、ふたりのかくれているかべの間をのぞきこみました。
「うふふふ……。こわがらなくてもよい。おまえたちにかみつくわけじゃない。
ざんねんながら、おれはしっぱいしたんだ。ポケット小ぞうに、ほうせきを取り返されてしまった。そして、追っかけられたのだ。そういうときの用意に、おれは、とらの皮を、おし入れの中にかくしておいたんだ。それを着て、みんなをびっくりさせて、そのまに、にげだしたのだ。おれは、けっしてつかまりはしないよ。
ところで、きみたちにいっておくが、おれは、きみたちのおとうさんに化けて、ほうせきをぬすんだ。だから、ここのうちには、きみたちの、ほんとうのおとうさんはいないのだ。
どこにいると思うね。うふふ……。ある場所にかくしてある。そして、おとうさんと引きかえに、ほうせきをもらうつもりだよ。
わかったかね。おとうさんを返してほしかったら、ほうせきをおれにわたすように、みんなにたのむのだ。ほうせきを、いつ、どこへ持ってくればいいかは、あとで知らせるよ。わかったね。じゃあ、あばよ」
とらは、それだけのことをいってしまうと、あと足で、まどのところへ歩いていき、ガラス戸を開いて、まっ暗なにわへ、ぴょいととび出していってしまいました。