きむらたけしくんは、いもうとのきみ子ちゃんとふたりで、ちかくにあるふしぎなせいようかんへあそびに行きました。
そこには、林さんという、ふしぎな人がすんでいました。きんじょの人は、林さんをまほうつかいとよんでいたのです。
でも、たけしくんのおとうさんと、その林さんとは、お友だちなので、こわくはありません。
そのばけものやしきには、ひろいしばふのにわがあるのです。
まほうつかいの林さんは、そのにわで、たけしくんときみ子ちゃんに、ふしぎなことをやってみせました。
虫のように小さな林さんがあらわれ、それがだんだん大きくなって、ほんとうの林さんのすがたにもどったのです。
たけしくんときみ子ちゃんは、びっくりしてしまって、ものもいえないでいました。
「わははは……。おどろいたかい。これぐらいのことにおどろいてはだめだよ。
いまにもっとびっくりするようなことがおこるからね。
せけんの人は、わしをまほうつかいだといっているが、それはほんとうかもしれないよ。
いいかい、こんどはどんなことがおこるか、よくみているんだよ」
くろいマントをきた林さんは、そういったかとおもうと、にわの中で、いちばん大きな木の下へ行って、そのふといみきを、するするとのぼりはじめたではありませんか。
くろいマントがひらひらして、大きな鳥がのぼっていくようです。
みるみるみきをのぼりきって、はのしげったえだの中へかくれてしまいました。
下のえだがガサガサとうごき、その上のえだがうごき、また、その上のえだがうごき、すがたはみえませんが、林さんがだんだん上のほうへのぼっていくのがわかります。そして、とうとうてっぺんまでたどりついたようです。
たけしくんたちはかおをそらにむけて、その大きな木のてっぺんをじっとみつめていました。
しばらくすると、ブルンブルンブルンブルン……と、みょうなおとがきこえてきたではありませんか。
木のてっぺんが大風にふかれているように、ザーッとゆれています。
そのとき、そのてっぺんから、大きなくろい鳥のようなものがそらへまいあがりました。
「あらっ、おじさんだわ。おじさんがとんでいくわ」
きみ子ちゃんが、たけしくんのかたに、すがりついてさけびました。
たけしくんは、びっくりしてしまって、ものもいえません。
大きなこうもりのようです。林さんは、くろいマントをひらひらさせながら、たのしそうにとんでいきます。
「あっ、プロペラだ。きみ子ちゃん、あれ、プロペラだよ。
ほら、林さんのせなかの上で、きらきらひかってまわってるだろう。ヘリコプターとおんなじだ。プロペラのちからでとんでいるんだよ」
たけしくんは、そういって、目をまんまるにしてそらをみつめました。
林さんは、あのプロペラをまわすきかいをせなかにくくりつけてとんでいるのでしょうか。そんなべんりなきかいがあるなんて、きいたこともありません。
林さんはえらいはつめいかなのでしょうか。
だれもしらないふしぎなきかいをはつめいするので、まほうつかいのようにみえるのでしょうか。
「あらあら、もうあんなに小さくなったわ」
「ほんとだ。もうからすぐらいの大きさだね。いまに、すずめぐらいになって、そして、みえなくなってしまうよ」
まっくろなふしぎな鳥は、たかくたかく、そらにまいあがって、たけしくんがいったとおり、すずめぐらいの大きさになり、それから、ちょうちょうぐらいになり、はえぐらいになり、そして、とうとうみえなくなってしまいました。
「どこへ行ったんでしょう。てんにのぼってしまって、もうかえってこないのじゃないかしら」
きみ子ちゃんは、かなしそうなかおになって、なみだぐんでいました。
「あっ、あれをごらん」
たけしくんが、きみ子ちゃんのかたをゆさぶりました。
「まあ……」
きみ子ちゃんも、そのほうをみると、あっとおどろいたまま、ものもいえなくなりました。
さっきの大きな木の下に、林さんがにこにこわらってたっていたのです。
いつのまにそらからもどってきたのでしょう。ほんとうに、こんなふしぎなことってあるものでしょうか。
「あはははは……。またびっくりしたね。そうじゃないよ。ぼくは林さんじゃないんだよ」
四かくなめがねをかけ、ぴんとはねた口ひげと、三かくのあごひげをはやし、くろいマントをきた、林さんとそっくりな人が、林さんじゃないというのです。
「よくみてごらん。ほら、ぼくはこんなに小さいじゃないか。きみたちとおんなじ小学校の三ねん生なんだよ。でも、林さんによくにてるだろう。そっくりだろう」
なるほど、よくみると、せが小さいのです。こえも子どもです。
「あははは……、まだわからないかい。これがさっきの林さんのまほうのたねなんだよ。こっちへ来てごらん。すっかりたねあかしをしてやるから」
たけしくんもきみ子ちゃんもさっきからつぎつぎとおこるふしぎに、ゆめでもみているようなきもちでした。
とてもおもしろいどうわの本でもよんでいるようなきもちでした。
林さんと、そっくりなしょうねんが、こっちへ来てごらんというので、ふたりは、おずおずとそのほうへちかよっていきました。
「ほらね、これがまほうのたねだよ」
しょうねんは、そういって、木のみきのうしろをゆびさしました。
「これが、さいしょにあらわれたにんぎょうだよ。ぜんまいじかけであるくのさ。二十センチぐらいしかないだろう。
それから、あっちにもう一つある。やっぱりぜんまいじかけなんだよ。これは四十センチぐらいあるだろう。二つともあるかせてみようか」
しょうねんは、そういって、二つのにんぎょうをもってきました。
「いいかい、みててごらん」
二つのにんぎょうをたてて、せなかのねじをまきますと、二十センチと四十センチの小さい林さんが、足なみをそろえて、とことことあるきだしたではありませんか。
四かくなめがねをひからせ、口ひげをぴんとはねて、くろいマントをひらひらさせながら。
「こうして木のみきにかくれるたびに、だんだん大きいのといれかわっていったんだよ。
そして、三ばんめにあらわれたのが、このぼくだったのさ。
それから、ぼくがこの木のみきにかくれると、そこにまちかまえていた林さんが、すがたをあらわしたというわけだよ。わかったかい、これがまほうのたねなんだよ」
きいてみるとすっかりわけがわかりました。
「ねえ、さっき林さんがそらへのぼっていったのは、プロペラのしかけでしょう。でも、どこへ行ったのかしら。てんにのぼったまま、かえってこないのかしら」
たけしくんが、しんぱいそうにいいますと、しょうねんは、さもおかしそうにわらいだしました。