明智たんていと、おおぜいのおまわりさんに取りかこまれたかいじん二十めんそうは、屋根に上がって、そこから、まるでスーパーマンのように、空へとんでいってしまいました。
それから、一週間ほどたった、あるばんのことです。二十めんそうにねらわれた木村さんの家へ、小林くんがたずねてきていました。
木村さんの子どもの、たけしくんときみ子ちゃんは、小林くんとなかよしになっていたので、自分たちの勉強べやへ、小林くんをつれていって、話をしていました。
そのへやの外には、広いにわがあって、まどに、黄色いカーテンがおりていました。
もう、夜の八時ごろのことでした。三人が話をしていると、とつぜん、ぱっとでんとうがきえて、へやの中がまっ暗になってしまいました。ていでんのようです。
すると、まどにおろしてあるカーテンが、ぼうっと、明るく見えてきました。そして、そのカーテンに、なにか、もやもやと、黒いものが動いているではありませんか。
たけしくんは、ろうそくを取りに行こうとしましたが、その、もやもやした黒いものを見ると、もう、からだが動かなくなってしまいました。
三人は、まほうの力で引きつけられたように、カーテンから、目をはなすことができません。
やがて、そのもやもやしたものは、大きな人間の顔であることがわかってきました。まどの外に、なにものかが立っていて、その顔が、にわのでんとうの光で、カーテンにうつっているのです。それにしても、なんというきみの悪い、大きな顔でしょう。一メートルもあるよこ顔が、黒々とうつり、大きな口をあけて、へんなふうにわらっているのです。
「えへへへ……」
なんともいえない、いやなわらい声が聞こえてきました。
「だれだっ。そこにいるのは、だれだっ」
小林くんが、どなりつけました。
「おれだよ、わからないかね」
かげの声が、うすきみ悪く答えました。
「だれだっ。名まえをいいたまえ」
「うふふふ……、まだわからないかね。おれは、二十めんそうだよ」
「えっ、二十めんそうだって」
たけしくんときみ子ちゃんは、まっさおになりました。
「そこには、小林くんもいるんだろう。いいか、おれのいうことをよく聞いておくがいい」
かげが、大きな口をぱくぱくやって、しゃべりだしました。へんな声です。まるで、ほらあなの中ででもしゃべっているように、ビーン、ビーンとひびく声です。
「いいか、おれは、まだ、この家のほうせきをあきらめていないのだ。あんなひどいめにあわされたのだから、そのかたきうちをするのだ。そして、明智のやつや、小林や、ポケット小ぞうを、あっと、おどろかせてやるのだ。うふふふ……、いまに見るがいい。ほうせきは、きっと、ぬすみ出してみせるからな」
そこまで聞くと、もう、小林くんはがまんできませんでした。いきなり、まどにかけよると、カーテンをはねのけ、ガラッと、ガラスまどをあけました。てっきり、二十めんそうが、まどの外に立っていると思ったからです。
ところが、ああ、なんというふしぎ。広いにわには、見わたすかぎり、だれもいないではありませんか。
まどぎわに、しゃがんでいるのかもしれないと、下をのぞいてみましたが、そこにも、人のすがたは見えません。
そのとき、たけしくんが、つくえの引出しから、かいちゅうでんとうを出して、小林くんにわたしたので、それで、そのへんをずっとてらしてみましたが、やっぱり、だれもいないのです。
あんなかげをうつしておいて、そんなに早くにげられるものでしょうか。そんなことは、とても考えられません。
三人は、ぞうっと、うすきみ悪くなってきました。二十めんそうは、またしても、まほうを使ったのです。
三人は、おくへかけこんでいきましたが、家じゅうのでんとうがきえていてまっ暗なので、かいちゅうでんとうで、台所のスイッチをしらべてみると、スイッチの切れていることがわかりました。すぐに、スイッチを入れましたので、家じゅうが明るくなりました。
三人は、木村さんのへやにはいって、今のできごとを知らせました。
それから、小林くんは、木村さんの耳に口をつけるようにして、ぼそぼそと、なにかささやきました。すると、木村さんは、感心したようにうなずいて、
「うん、それはいい考えだ。きみのいうとおりにしよう」
と答えました。
小林くんは、いったい、なにを話したのでしょう。それは、二十めんそうを、あっといわせるようなけいりゃくでした。どんなけいりゃくだったか、やがて、みなさんに、わかるときが来るでしょう。
そのばんは、そのまま、なにごとも起こりませんでした。十時近くになると、小林くんは、木村さんと、ひそひそとなにかうちあわせてから、たんていじむ所へ帰っていきました。
さて、そのあくる日の夜のことです。木村さんの家の中で、またしても、おそろしいことが起こりました。
木村さんの家は、広いせいようかんですが、たけしくんときみ子ちゃんのベッドは、二かいのしんしつにあります。
もう、夜の九時もすぎたので、たけしくんときみ子ちゃんは、おとうさんとおかあさんに、「おやすみなさい」をいうと、パジャマに着かえ、ふたりそろって、手すりのついた広いかいだんを上がって、とちゅうのおどり場へ来たときです。後ろからついてきたきみ子ちゃんが、急に、「あっ」とさけびました。
そのおどり場は、はば二メートル、長さ四メートルぐらいの板の間で、後ろは、二かいのてんじょうまでつづいた、白いかべになっています。その、えいがのスクリーンのような白いかべに、あやしいかげがうつったのです。
「あっ、おにいちゃま、たいへんよ。あっ、早くにげなければ……」
きみ子ちゃんの声に、たけしくんは、びっくりして、白いかべを見ました。
おお、これは、どうでしょう。
かべいっぱいの大きな手が、つめの長くのびた指を、おそろしい形にきゅうっとまげて、たけしくんの頭の上から、つかみかかってくるではありませんか。
きょじんの手です。まっ黒な手のかげです。
それが、かべにうつったたけしくんの小さいかげの上から、ぐうっとおりてくるのです。
たけしくんは、あまりのおそろしさに、「わあっ」といって、その場にうずくまってしまいました。
きみ子ちゃんが、このことを、おかあさんに知らせたので、大さわぎになり、木村さんや書生などがかけつけてきましたが、そのときには、もう、かべのかげはきえていました。そして、いくらしらべても、どうして、あんなかげがうつったのか、わけがわからないのでした。
ああ、まほう使いの二十めんそうは、これから、どんなおそろしいことを、始めるのでしょうか。
そして、小林くんのけいりゃくとは、どんなことでしょうか。