← Library‹ ふしぎな人 15 黒いかげ

明智あけちたんていと、おおぜいのおまわりさんに取とりかこまれたかいじん二十にじゅうめんそうは、屋根やねに上あがって、そこから、まるでスーパーマンのように、空そらへとんでいってしまいました。

それから、一いち週間しゅうかんほどたった、あるばんのことです。二十にじゅうめんそうにねらわれた木村きむらさんの家いえへ、小林こばやしくんがたずねてきていました。

木村きむらさんの子こどもの、たけしくんときみ子こちゃんは、小林こばやしくんとなかよしになっていたので、自分じぶんたちの勉強べんきょうべやへ、小林こばやしくんをつれていって、話はなしをしていました。

そのへやの外そとには、広ひろいにわがあって、まどに、黄色きいろいカーテンがおりていました。

もう、夜よるの八はち時じごろのことでした。三さん人にんが話はなしをしていると、とつぜん、ぱっとでんとうがきえて、へやの中なかがまっ暗くらになってしまいました。ていでんのようです。

すると、まどにおろしてあるカーテンが、ぼうっと、明あかるく見みえてきました。そして、そのカーテンに、なにか、もやもやと、黒くろいものが動うごいているではありませんか。

たけしくんは、ろうそくを取とりに行いこうとしましたが、その、もやもやした黒くろいものを見みると、もう、からだが動うごかなくなってしまいました。

三さん人にんは、まほうの力ちからで引ひきつけられたように、カーテンから、目めをはなすことができません。

やがて、そのもやもやしたものは、大おおきな人間にんげんの顔かおであることがわかってきました。まどの外そとに、なにものかが立たっていて、その顔かおが、にわのでんとうの光ひかりで、カーテンにうつっているのです。それにしても、なんというきみの悪わるい、大おおきな顔かおでしょう。一いちメートルもあるよこ顔がおが、黒々くろぐろとうつり、大おおきな口くちをあけて、へんなふうにわらっているのです。

「えへへへ……」

なんともいえない、いやなわらい声ごえが聞きこえてきました。

「だれだっ。そこにいるのは、だれだっ」

小林こばやしくんが、どなりつけました。

「おれだよ、わからないかね」

かげの声こえが、うすきみ悪わるく答こたえました。

「だれだっ。名なまえをいいたまえ」

「うふふふ……、まだわからないかね。おれは、二十にじゅうめんそうだよ」

「えっ、二十にじゅうめんそうだって」

たけしくんときみ子こちゃんは、まっさおになりました。

「そこには、小林こばやしくんもいるんだろう。いいか、おれのいうことをよく聞きいておくがいい」

かげが、大おおきな口くちをぱくぱくやって、しゃべりだしました。へんな声こえです。まるで、ほらあなの中なかででもしゃべっているように、ビーン、ビーンとひびく声こえです。

「いいか、おれは、まだ、この家いえのほうせきをあきらめていないのだ。あんなひどいめにあわされたのだから、そのかたきうちをするのだ。そして、明智あけちのやつや、小林こばやしや、ポケット小こぞうを、あっと、おどろかせてやるのだ。うふふふ……、いまに見みるがいい。ほうせきは、きっと、ぬすみ出だしてみせるからな」

そこまで聞きくと、もう、小林こばやしくんはがまんできませんでした。いきなり、まどにかけよると、カーテンをはねのけ、ガラッと、ガラスまどをあけました。てっきり、二十にじゅうめんそうが、まどの外そとに立たっていると思おもったからです。

ところが、ああ、なんというふしぎ。広ひろいにわには、見みわたすかぎり、だれもいないではありませんか。

まどぎわに、しゃがんでいるのかもしれないと、下したをのぞいてみましたが、そこにも、人ひとのすがたは見みえません。

そのとき、たけしくんが、つくえの引出ひきだしから、かいちゅうでんとうを出だして、小林こばやしくんにわたしたので、それで、そのへんをずっとてらしてみましたが、やっぱり、だれもいないのです。

あんなかげをうつしておいて、そんなに早はやくにげられるものでしょうか。そんなことは、とても考かんがえられません。

三さん人にんは、ぞうっと、うすきみ悪わるくなってきました。二十にじゅうめんそうは、またしても、まほうを使つかったのです。

三さん人にんは、おくへかけこんでいきましたが、家いえじゅうのでんとうがきえていてまっ暗くらなので、かいちゅうでんとうで、台所だいどころのスイッチをしらべてみると、スイッチの切きれていることがわかりました。すぐに、スイッチを入いれましたので、家いえじゅうが明あかるくなりました。

三さん人にんは、木村きむらさんのへやにはいって、今いまのできごとを知しらせました。

それから、小林こばやしくんは、木村きむらさんの耳みみに口くちをつけるようにして、ぼそぼそと、なにかささやきました。すると、木村きむらさんは、感心かんしんしたようにうなずいて、

「うん、それはいい考かんがえだ。きみのいうとおりにしよう」

と答こたえました。

小林こばやしくんは、いったい、なにを話はなしたのでしょう。それは、二十にじゅうめんそうを、あっといわせるようなけいりゃくでした。どんなけいりゃくだったか、やがて、みなさんに、わかるときが来くるでしょう。

そのばんは、そのまま、なにごとも起おこりませんでした。十じゅう時じ近ちかくになると、小林こばやしくんは、木村きむらさんと、ひそひそとなにかうちあわせてから、たんていじむ所しょへ帰かえっていきました。

さて、そのあくる日ひの夜よるのことです。木村きむらさんの家いえの中なかで、またしても、おそろしいことが起おこりました。

木村きむらさんの家いえは、広ひろいせいようかんですが、たけしくんときみ子こちゃんのベッドは、二にかいのしんしつにあります。

もう、夜よるの九きゅう時じもすぎたので、たけしくんときみ子こちゃんは、おとうさんとおかあさんに、「おやすみなさい」をいうと、パジャマに着きかえ、ふたりそろって、手てすりのついた広ひろいかいだんを上あがって、とちゅうのおどり場ばへ来きたときです。後うしろからついてきたきみ子こちゃんが、急きゅうに、「あっ」とさけびました。

そのおどり場ばは、はば二にメートル、長ながさ四よんメートルぐらいの板いたの間まで、後うしろは、二にかいのてんじょうまでつづいた、白しろいかべになっています。その、えいがのスクリーンのような白しろいかべに、あやしいかげがうつったのです。

「あっ、おにいちゃま、たいへんよ。あっ、早はやくにげなければ……」

きみ子こちゃんの声こえに、たけしくんは、びっくりして、白しろいかべを見みました。

おお、これは、どうでしょう。

かべいっぱいの大おおきな手てが、つめの長ながくのびた指ゆびを、おそろしい形かたちにきゅうっとまげて、たけしくんの頭あたまの上うえから、つかみかかってくるではありませんか。

きょじんの手てです。まっ黒くろな手てのかげです。

それが、かべにうつったたけしくんの小ちいさいかげの上うえから、ぐうっとおりてくるのです。

たけしくんは、あまりのおそろしさに、「わあっ」といって、その場ばにうずくまってしまいました。

きみ子こちゃんが、このことを、おかあさんに知しらせたので、大おおさわぎになり、木村きむらさんや書生しょせいなどがかけつけてきましたが、そのときには、もう、かべのかげはきえていました。そして、いくらしらべても、どうして、あんなかげがうつったのか、わけがわからないのでした。

ああ、まほう使つかいの二十にじゅうめんそうは、これから、どんなおそろしいことを、始はじめるのでしょうか。

そして、小林こばやしくんのけいりゃくとは、どんなことでしょうか。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%