いやそれはすいぞくかんではありません。もっともっと、びっくりするようなものだったのです。
そのとき、くろシャツにベレーぼうの林さんは、たけしくんたちに、こんなことをいいました。
「おじさんは、ちょっと上へ行ってくるからね。ここにじっとしているんだよ。ちっともこわいことはないからね」
そして、また、へやがゆらゆらゆれて、やがてぴたりととまりました。
すると、まどの外の光がきえて、へやの中のでんとうがつきました。
林さんは、あたまの上のまるいあなのしまりをはずして、そこから上へでていきました。あとには、たけしくんたちふたりだけがのこったのです。
ああ、これからどんなことがおこるのでしょうか。
林さんのせいようかんには、おおぜいのおまわりさんがふみこんで、へやからへやをさがしまわっていました。
めいたんていあけちこごろうと、じょしゅの小林しょうねんは、林さんのへやにはいって、あたりを見まわしました。すると、かべのそばにある、大きなようふくだんすの中で、コツコツと、みょうな音がしているではありませんか。
あけちたんていは、つかつかと、ようふくだんすにちかづいて、そのとびらをぱっとひらきました。
すると、その中に、ひとりの男がたっていたのです。ぴったりとからだについた、くろいシャツとズボン下に、ベレーぼうをかぶった男。
林さんです。林さんは、いつのまにか、ようふくだんすの中にかくれていたのです。
「ははははは……。あけちくん、ひさしぶりだね。やっと、おれのかくれががわかった、というわけか」
林さんが、みょうなことをいいました。
「そうだ。ぼくは、とうとうかいじん二十めんそうのすみかをつきとめたのだ。それとも、かいじん四十めんそうとよんだほうがおきにいるかね」
あけちたんていは、林さんのかおをまっこうからゆびさしながら、はげしくいいました。
ああ、なんということでしょう。たけしくんのおとうさんが、いい人だとあんしんしていた林さんが、きくもおそろしいかいじん四十めんそうだったとは。
このかいじんは、へんそうのだいめいじんで、四十もちがったかおをもっているというので、四十めんそうとあだ名されていたのです。まほうつかいのような大どろぼうです。
「木村たけしくんときみ子ちゃんは、どこにいるのだ。きみは、ふたりの子どもを人じちにして、木村さんのもっている、たくさんのほうせきをとろうとしているのだ。木村さんが、きみをしんようしているのをいいことにして、ふたりの子どもをさらってしまったのだ」
あけちたんていがいいますと、四十めんそうの林さんはせせらわらって……。
「そのとおりだ。さすがにあけちくんは目がたかいよ。ははは……」
そのわらい声がだんだんかすかになって、四十めんそうのすがたは、すうっときえていきました。
あけちたんていは、いきなりようふくだんすの中へふみこみました。
しかし、四十めんそうは、もうどこにもおりません。ゆうれいのようにきえてしまったのです。
あけちたんていは、たくさんさがっているようふくをかきわけて、うしろのいたをさぐっていましたが、「あっ、ここにかくし戸がある」とさけびました。
そして、力まかせに、そのいたをおしますと、かくし戸がぱっとひらきました。
そのむこうはまっくらなあなです。これも、ちかしつへおりるひみつのぬけ道なのでしょう。
「ピリピリピリピリ……」
小林しょうねんが、よび子のふえをふきならしました。それをきいて、おまわりさんがかけつけてきました。
「四十めんそうは、このぬけあなからにげたんだ。みんな、ぼくのあとについてきたまえ」
あけちたんていは、そうさけんで、くらいあなの中へとびこんでいきました。小林しょうねんやおまわりさんも、あとにつづきます。
あなの中には下へおりるコンクリートのかいだんがついていました。
それをおりきると、トンネルのようなよこ道があって、むこうが、ぼうっとあかるくなっています。
その光の中を、まっくろな人かげがさっとよこ切りました。
「あっ、あそこにいる。あいつが四十めんそうだ」
あけちたんていと小林しょうねんと、四人のおまわりさんが、おそろしいいきおいでおっかけました。
トンネルをでたところに、ちょっとひろいばしょがあります。四十めんそうは、そこにまちかまえていました。
「ふたりの子どもは、たしかにあずかっている。だが、きみたちには、ぜったいにとりもどせないのだ」
四十めんそうは、そうさけんだかと思うと……。
足もとにひらいていたまるいあなの中にさっととびこんで、下から、てつのふたをぴったりとしめてしまいました。
あけちたんていは、「あっ」といって、あなのふちへかけつけました。
すると、てつのふたは、すうっと下へしずんでいって、あとには、くろい水が、ひたひたとさざなみをたてているばかりです。
「あっ、せんこうていだっ」
林さんのひろいやしきは、すみだ川ととうきょうこうのさかい目の川ぎしにあったのです。ですから、ちかしつの下のほうには、川の水がながれこむようになっていて、そこに、小がたのせんこうていがつないであったのです。
四十めんそうは、たけしくんときみ子ちゃんをつれて、そのせんこうていで、ひろい海へにげだしてしまったのです。