← Library‹ ふしぎな人 9 二十めんそうのゆくえ

かいじん四十よんじゅうめんそうは、夜よるの東京とうきょう港こうで、水上すいじょうけいさつのモーターボートの上うえから、海うみの中なかにとびこんで、そのままゆくえ知しれずになってしまいました。

かいじん四十よんじゅうめんそうのもとの名なは、かいじん二十にじゅうめんそうです。あるとき、自分じぶんは、二十にじゅうどころではなく、四十よんじゅうものちがった顔かおをもっている、四十よんじゅう人にんのまったくちがった人ひとに化ばけることができるというので、四十よんじゅうめんそうと名なまえをかえたのですが、世間せけんには、二十にじゅうめんそうのほうが、よく知しられていますので、このお話はなしでは、二十にじゅうめんそうの名なでよぶことにしましょう。

さて、この二十にじゅうめんそうは、いったいどこへかくれてしまったのでしょう。二十にじゅうめんそうほどのやつですから、海うみでおぼれ死しんだはずはありません。どこかへおよぎ着ついて、身みをかくしたにちがいないのです。

しかし、二十にじゅうめんそうにつれ出だされた、木村きむらたけしくんときみ子こちゃんが、ぶじに帰かえってきましたので、木村きむらさんのおうちでは、おとうさんもおかあさんも、大おおよろこびです。

「たけしも、きみ子こも、ずいぶんおそろしいめに会あったね。だが、もうだいじょうぶだよ。二十にじゅうめんそうは、どこかへかくれてしまって、二に度どとこの家いえにはやって来こないだろうからね」

たけしくんときみ子こちゃんのおとうさんの木村きむらさんは、ふたりの頭あたまをなでながら、にこにこしていうのでした。

「こわかったよ。でも、おもしろかったね、きみちゃん。ヘリコプターに乗のったし、モーターボートに乗のったし……。モーターボートは、はやかったねえ。さあっと水みずを切きって走はしるんだよ。あんまりはやいので、ぼく、もうすこしで、気きが遠とおくなりそうだった」

「でも、わたし、おそろしかったわ。もうむちゅうで、なにがなんだか、わからなかったわ」

きみ子こちゃんは、おびえた顔かおでいうのでした。

「そうだろう、そうだろう。ほんとうにひどいめに会あったね」

木村きむらさんは、かわいいきみ子こちゃんをだきしめて、なぐさめてくださるのでした。

☆     ☆

それから一いち月がつほどたったあるばんのこと、名めいたんてい明智小五郎あけちこごろうから、木村きむらさんに、電話でんわがかかってきました。

「しきゅう、お話はなししたいことがありますので、わたしのじむ所しょまで、おいでねがえませんか。こちらからうかがうといいのですが、ちょっと、わけがあって、じむ所しょをはなれることができないのです」

木村きむらさんは、それを聞きくと、すぐに自動じどう車しゃの用意よういをめいじました。明智あけちたんていは、たけしくんときみ子こちゃんを助たすけてくれた大おおおんじんですから、来きてくれといわれれば、いやとはいえないのです。

自動じどう車しゃは、自家じか用よう車しゃです。うんてん手しゅは、まだおよめさんのないひとり者もので、木村きむらさんの家いえに住すみこんでいたのですが、つい四よん、五いつ日か前まえ、国くにの親おやが病気びょうきだといってひまを取とって帰かえってしまいましたので、新あたらしいうんてん手しゅをやとったばかりでした。

この新あたらしいうんてん手しゅも、二十にじゅう八はちさいのひとり者もので、やっぱり、木村きむらさんの家いえに住すみこんでいるのです。名なまえは、栗田くりたというのでした。

木村きむらさんは、その栗田くりたのうんてんする車くるまに乗のって、急いそいで、明智あけちたんていじむ所しょへ出でかけていきましたが、二に時間じかんほどすると、もどってきました。そのときは、もう、夜よるの十じゅう一いち時じでした。

たけしくんや、きみ子こちゃんは、とっくにねてしまいましたが、おかあさんが、書生しょせいといっしょに出でむかえて、心配しんぱいそうに、木村きむらさんにたずねました。

「あなた、どんな用ようでしたの。もしや、二十にじゅうめんそうが……」

「うん、そうだよ。二十にじゅうめんそうが、またなにかたくらんでいるらしいのだ。それについて、明智あけちさんから、うちのほうせきを用心ようじんするようにと、いろいろ、細こまかい注意ちゅういをされてきたのだ。いやなことだな。なんという、しゅうねん深ふかいやつだろう」

おかあさんの顔かおが、さっと青あおくなりました。ああ、また、あのおそろしいやつがやって来くるのかと思おもうと、からだがふるえだしてくるのでした。

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