← Library‹ 青べか物語 土堤の秋

十じゅう月がつ下旬げじゅんの昏くれがた。土堤どていの斜面しゃめんの下したに、一人ひとりの若者わかものが腰こしをおろして、泣ないていた。

斜面しゃめんは草くさが茂しげっているので、土堤どていの上うえを通とおる人ひとには見みえない。かなり強つよい西風にしかぜが、その茂しげったくさむらを絶たえまなしにそよがせ、茶色ちゃいろにほおけた草くさの穂ほが、風かぜの渡わたるたびに、若者わかものの着物きものをせわしく撫なでた。空そらには、金色きんいろにふちどられた棚雲たなぐもがひろがり、土堤どていの上うえへ片かた明あかりの強つよい光ひかりをなげているが、斜面しゃめんのこちらはもう黄昏たそがれの冷つめたそうな、青あおずんだ灰色はいいろのなかに沈しずんでいた。

若者わかものは立たてた膝ひざの上うえに両手りょうてを置おき、手先てさきをだらっと垂たらしたり、片手かたてで眼めをぬぐったりした。ふと大おおきく溜息ためいきをつくかと思おもうと、首くびの折おれるほど頭あたまを垂たれ、その頭あたまを左右さゆうに振ふり、そしてまた眼めをぬぐった。

棚雲たなぐものふちを染そめていた眩まぶしいほどの金色きんいろは、華はなやかな紅炎こうえんから牡丹色ぼたんいろに変かわり、やがて紫色むらさきいろになると、中天ちゅうてんに一ひとつはなれた雲くもが、残照ざんしょうを一いち点てんに集あつめるかのように、いっとき明あかるい橙色だいだいいろに輝かがやいたが、それも見みるまに褪あせて、鼠色ねずみいろにかすみながらはがね色いろに澄すみあがった空そらへ溶とけこんでいった。土堤どていの上うえも暗くらくなり、ときたま往いき来きする人ひとたちも、影絵かげえのようにぼんやりと黒くろく、こころもとなげに見みえた。

斜面しゃめんのこちらは東ひがしの空そらの反映はんえいで、却かえって明あかるくなったようだ。しかし、本当ほんとうはまえより暗くらさを増ましているのだろう、風ふうに揺ゆれ動うごくくさむらも、すっかり色いろや陰影いんえいを失うしなって、ただ非ひ現実げんじつ的てきな青銅せいどう色しょくひといろに塗ぬりつぶされてしまい、そこに若者わかものがいるということも、いまは殆ほとんど判別はんべつがつかなくなった。

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