← Library‹ 青べか物語 けけち

私わたくしは青あおべかを大だい三角さんかくに繋つないで、釣つりをしていた。秋あきの中なかごろだったと思おもう、――大だい三角さんかくとは、根ね戸と川かわの下流かりゅうにある三角洲さんかくすで、デルタというものがいかにして形成けいせいされるかということを、絵解えときにして見みせているような存在そんざいであった。概略がいりゃくだけ描えがいてみると、干潮かんちょう時じには洲すそのものが三さん段だんに重かさなっているのが見みえる。一段いちだんはほぼ五十ごじゅうセンチほどの厚あつさがあり、段だんと段だんのあいだは隙間すきまになって、枯かれた古ふるい芦あしの幹みきが支柱しちゅうのように竝立へいりつしている。――つまり、芦あしの茂しげみに砂すなや土つちが溜たまり、流ながれて来きた小枝こえだや枯葉かれはが溜たまり、そこへまた砂塵さじんや土つちが混まじって、洲すの一段いちだんが出来できあがる。これが繰返くりかえされると、やがて芦あしはその段だんから生はえるようになり、その芦あしの茂しげみを中心ちゅうしんに、また同おなじことが始はじまるのである。どのくらいの年月としつきかは不明ふめいであるが、上うえの段だんがそれ自身じしんの重おもみで、下したのそれへとさがって重かさなり、さらに沈下ちんかして洲すの基礎きそとなる。――私わたくしにはそういうふうに考かんがえられたし、現げんにその洲すの周辺しゅうへんが三さん段だんになっているのは、デルタ形成けいせいの途上とじょうであるのだと思おもえた。

大だい三角さんかくは芦あしで蔽おおわれてい、やかましくよしきりが鳴なき騒さわいでいた。百舌鳥もずもそうぞうしくて遠慮えんりょ知しらずな鳥とりである、百舌もずとはよく名付なづけたものだと思おもうが、よしきりもそうぞうしい点てんでは百舌鳥もずにおさおさ劣おとらない、彼かれには「ぎょうぎょうし」という又またの名なもあり、芦あしの中なかを飛とび廻まわっては、いきなり人ひとを嘲弄ちょうろうするような鳴なき声ごえをたてる。――私わたくしが釣つりのほうを忘わすれ、デルタ形成けいせいという、幾分いくぶんか学問がくもん的てきな思考しこうをたのしんでいると、すぐ近ちかくの芦あしの中なかへ来きて、いきなりよしきりが嘲弄ちょうろうの叫さけびをあげた。

けけち けけち よしごで****突つっ突ついて おいてててて。

浦粕うらかすではよしきりを「けけち」と云いう。そして、長ちょうの説明せつめいによると、右みぎにあげたように鳴なくのだそうで、おたまに云いわせると****は、長ちょうが云いうのとは反対はんたいに男性だんせいの部分ぶぶんをさすということだが、そう云いわれてみると、慥たしかにそう鳴なくように聞きこえた。

「ふざけるな」と私わたくしはどなった、「黙だまれ、やかましいぞ」

私わたくしの思考しこうの邪魔じゃまをすることに成功せいこうしたのがうれしいとでもいうように、けけちはひときわ声こえを張はりあげて叫さけんだ。――けけち けけち よしごで****突つっ突ついておいてててててて。

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