← Library‹ 五瓣の椿 第四話 五

千之助せんのすけとおはなが去さったあと、清一せいいちは一人ひとりで面白おもしろがって、いまの出来事できごとを肴さかなにしながら飲のみだした。

「お倫おさむさんに人殺ひとごろし兇状きょうじょうの疑うたがいをかけるなんて、あの与力よりきの眼めはよっぽどどうかしている、これが男おとこころしとでも云いうのなら見当けんとうは合あうがね」

「清きよしさんって屹きっとしたところがあるのね」とお倫りんは酌しゃくをしてやりながら云いった、「町方まちかた与力よりきっていえばたいへんな威勢いせいがあるんでしょ、それを清きよしさんは平気へいきな顔かおで、ひらき直なおっていざを云いうんですもの、あたしどうなるかと思おもってはらはらしちゃったわ」

「与力よりきだって町まち奉行ぶぎょうだって」と清一せいいちは膝ひざへ手てを突つっ張ぱって云いった、「悪わるい事ことをしない限かぎり恐おそれるこたあありゃあしないさ、蔵前くらまえの店みせへいってごらん、ああいう侍さむらいがよく金かねを借かりに来きて、番頭ばんとうなんかにお世辞せじを使つかってるから」

「でもあの人ひとお店みせへゆくことよ」

「いいとも」と彼かれは強つよく頷うなずいた、「お倫おさむさんが本当ほんとうに承知しょうちしてくれるなら、浅草橋あさくさばしの叔父おじのところへいって話はなしをする、嫁よめを貰もらって身みを固かためるとわかれば、おやじだって勘当かんどうは解といてくれるにきまってるよ」

「そんなにうまくいくかしら」

「うまく、――そうだ」清一せいいちは膝ひざを叩たたいた、「いまの騒さわぎはとんだ茶番ちゃばんだったが、おかげでお倫おさむさんのいどころがわかった、もう隠かくしてもだめだよ」

「湯島ゆしま横町よこまち、うまく知しれちゃったわね」

「それだけは与力よりきさまさまだ」と清一せいいちが云いった、「これからは訪たずねていってもいいだろうね」

「いつも云いってるでしょう、店みせのほうから人ひとがようすをみに来くるのよ」とお倫りんが云いった、「もしも清きよしさんの来きているところをみつかりでもしたら、なにもかもめちゃめちゃになってしまうんですもの」

「いいじゃないか、どうせ私わたくしといっしょになれば、親おやの世話せわになんかならずに済すむんだ、そうだろう」と云いって、清一せいいちは急きゅうに盃さかずきを置おき、お倫りんのほうへにじり寄よった、「――それよりちょっと」

「いや、清きよしさん」とお倫りんはあまえた声こえで云いった、「よして、ここを出でましょう」

「ここを出でるって」

「あんなことがあったから気持きもちが悪わるいの、あたしのうちへいきましょう」

「それは有難ありがたいが、本当ほんとうだろうね」

「わかっちゃったんですもの、しようがないわ」とお倫りんが云いった、「その代かわりわがままを仰おっしゃってはいやよ」

「わがままとは、どんな」と云いって、清一せいいちは誇張こちょうした太息といきをついた、「今夜こんやもおあずけというわけか、罪つみだよお倫おさむさん」

お倫りんはながし眼めで彼かれを見み、彼かれの肩かたに手てを掛かけて、ものうげに立たちあがった。

「さ、まいりましょう」

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