本郷にはいるとまもなく、道ばたに下駄屋さんがあります。
子供たちはその店にはいってゆきました。文六ちゃんの下駄を買うのです。文六ちゃんのお母さんに頼まれたのです。
「あののイ、小母さん」
と、義則君が口をとがらして下駄屋の小母さんにいいました。
「こいつのイ、樽屋の清さの子供だけどのイ、下駄を一足やっとくれや。あとから、おっ母さんが銭もってくるげなで」
みんなは、樽屋の清さの子供がよく見えるように、まえへ押しだしました。それは文六ちゃんでした。文六ちゃんは二つばかり眼ばたきしてつっ立っていました。
小母さんは笑い出して、下駄を棚からおろしてくれました。
どの下駄が足によくあうかは、足にあてて見なければわかりません。義則君が、お父さんか何ぞのように、文六ちゃんの足に下駄をあてがってくれました。何しろ文六ちゃんは、一人きりの子供で、甘えん坊でした。
ちょうど文六ちゃんが、新しい下駄をはいたときに、腰のまがったお婆さんが下駄屋さんにはいって来ました。そしてお婆さんはふとこんなことをいうのでした。
「やれやれ、どこの子だか知らんが、晩げに新しい下駄をおろすと狐がつくというだに」
子供たちはびっくりしてお婆さんの顔を見ました。
「嘘だい、そんなこと」
とやがて義則君がいいました。
「迷信だ」
とほかの一人がいいました。
それでも子供たちの顔には何か心配な色がただよっていました。
「ようし、そいじゃ、小母さんがまじないしてやろう」
と、下駄屋の小母さんが口軽くいいました。
小母さんは、マッチを一本するまねして、文六ちゃんの新しい下駄のうらに、ちょっと触りました。
「さあ、これでよし。これでもう、狐も狸もつきゃしん」
そこで子供たちは下駄屋さんを出ました。