← Library‹ 狐 二

本郷ほんごうにはいるとまもなく、道みちばたに下駄げた屋やさんがあります。

子供こどもたちはその店みせにはいってゆきました。文六ぶんろくちゃんの下駄げたを買かうのです。文六ぶんろくちゃんのお母ははさんに頼たのまれたのです。

「あののイ、小母おばさん」

と、義則よしのり君くんが口くちをとがらして下駄げた屋やの小母おばさんにいいました。

「こいつのイ、樽屋たるやの清せいさの子供こどもだけどのイ、下駄げたを一足ひとあしやっとくれや。あとから、おっ母ははさんが銭ぜにもってくるげなで」

みんなは、樽屋たるやの清きよさの子供こどもがよく見みえるように、まえへ押おしだしました。それは文六ぶんろくちゃんでした。文六ぶんろくちゃんは二ふたつばかり眼まばたきしてつっ立たっていました。

小母おばさんは笑わらい出だして、下駄げたを棚たなからおろしてくれました。

どの下駄げたが足あしによくあうかは、足あしにあてて見みなければわかりません。義則よしのり君くんが、お父ちちさんか何なんぞのように、文六ぶんろくちゃんの足あしに下駄げたをあてがってくれました。何なにしろ文六ぶんろくちゃんは、一人ひとりきりの子供こどもで、甘あまえん坊ぼでした。

ちょうど文六ぶんろくちゃんが、新あたらしい下駄げたをはいたときに、腰こしのまがったお婆ばあさんが下駄げた屋やさんにはいって来きました。そしてお婆ばあさんはふとこんなことをいうのでした。

「やれやれ、どこの子こだか知しらんが、晩ばんげに新あたらしい下駄げたをおろすと狐きつねがつくというだに」

子供こどもたちはびっくりしてお婆ばあさんの顔かおを見みました。

「嘘うそだい、そんなこと」

とやがて義則よしのり君くんがいいました。

「迷信めいしんだ」

とほかの一人ひとりがいいました。

それでも子供こどもたちの顔かおには何なんか心配しんぱいな色いろがただよっていました。

「ようし、そいじゃ、小母おばさんがまじないしてやろう」

と、下駄げた屋やの小母おばさんが口軽くちがるくいいました。

小母おばさんは、マッチを一本いっぽんするまねして、文六ぶんろくちゃんの新あたらしい下駄げたのうらに、ちょっと触さわりました。

「さあ、これでよし。これでもう、狐きつねも狸たぬきもつきゃしん」

そこで子供こどもたちは下駄げた屋やさんを出でました。

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