← Library‹ 狐 三

子供こどもたちは綿菓子わたがしを喰たべながら、稚児ちごさんが二ふたつの扇おうぎを、眼めにもとまらぬ速はやさでまわしながら、舞台ぶたいの上うえで舞まうのを見みていました。その稚児ちごさんは、お白粉しろいをぬりこくって顔かおをいろどっているけれど、よく見みると、お多福湯たふくゆのトネ子こでありましたので、

「あれ、トネ子こだよ、ふふ」

とささやきあったりしました。

稚児ちごさんを見みてるのに飽あくと、くらいところにいって、鼠花火ねずみはなびをはじかせたり、かんしゃく玉たまを石垣いしがきにぶつけたりしました。

舞台ぶたいを照てらすあかるい電燈でんとうには、虫むしがいっぱい来きて、そのまわりをめぐっていました。見みると、舞台ぶたいの正面しょうめんのひさしのすぐ下したに、大おおきな、あか土色つちいろの蛾ががぴったりはりついていました。

山車だしの鼻先はなさきのせまいところで、人形にんぎょうの三番叟さんばそうが踊おどりはじめる頃ころは、すこし、お宮みやの境内けいだいの人ひとも少すくなくなったようでした。花火はなびや、ゴム風船ふうせんの音おともへったようでした。

子供こどもたちは山車だしの鼻はなの下したにならんで、仰向あおむいて、人形にんぎょうの顔かおを見みていました。

人形にんぎょうは大人おとなとも子供こどもともつかぬ顔かおをしています。その黒くろい眼めは生いきているとしか思おもえません。ときどき、またたきするのは、人形にんぎょうを踊おどらす人ひとがうしろで糸いとをひくのです。子供こどもたちはそんなことはよく知しっています。しかし、人形にんぎょうがまたたきすると、子供こどもたちは、何なんだか、ものがなしいような、ぶきみなような気きがします。

するととつぜん、パクッと人形にんぎょうが口くちをあきペロッと舌したを出だし、あっというまに、もとのように口くちをとじてしまいました。まっかな口くちの中なかでした。

これも、うしろで糸いとをひく人ひとがやったことです。子供こどもたちはよく知しっているのです。ひるまなら、子供こどもたちは面白おもしろがって、ゲラゲラ笑わらうのです。

けれど子供こどもたちは、いまは笑わらいませんでした。提灯ちょうちんの光ひかりの中なかで、――影かげの多おおい光ひかりの中なかで、まるで生いきている人間にんげんのように、まばたきしたり、ペロッと舌したを出だしたりする人形にんぎょう……何なんというぶきみなものでしょう。

――子供こどもたちは思おもい出だしました、文六ぶんろくちゃんの新あたらしい下駄げたのことを。晩ばんげに新あたらしい下駄げたをおろすものは狐きつねにつかれるといったあの婆ばあさんのことを。

子供こどもたちは、じぶんたちが、ながく遊あそびすぎたことにも気きがつきました。じぶんたちにはこれから帰かえってゆかねばならない、半里はんりの、野中のなかの道みちがあったことにも気きがつきました。

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