← Library‹ 狐 四

かえりも月夜つきよでありました。

しかし、かえりの月夜つきよは、なんとなくつまらないものです。子供こどもたちは、だまって――ちょうど一人一人ひとりひとりが、じぶんのこころの中なかをのぞいてでもいるように、だまって歩あるいていました。

切通きりどおし坂さかの上うえに来きたとき、一人ひとりの子こが、もう一人ひとりの子この耳みみに口くちを寄よせて何なんかささやきました。するとささやかれた子こは別べつの子このそばにいって何なんかささやきました。その子こはまた別べつの子こにささやきました。――こうして、文六ぶんろくちゃんのほか、子供こどもたちは何なんか一ひとつのことを、耳みみから耳みみへいいつたえました。

それはこういうことだったのです。「下駄げた屋やさんの小母おばさんは文六ぶんろくちゃんの下駄げたに、ほんとうにマッチをすっておまじないをしやしんだった。まねごとをしただけだった」

それから子供こどもたちはまたひっそりして歩あるいてゆきました。ひっそりしているとき子供こどもたちは考かんがえておりました。

――狐きつねにつかれるというのはどんなことかしらん。文六ぶんろくちゃんの中なかに狐きつねがはいることだろうか。文六ぶんろくちゃんの姿すがたや形かたちはそのままでいて、心こころは狐きつねになってしまうことだろうか。そうすると、いまもう、文六ぶんろくちゃんは狐きつねにつかれているかもしれないわけだ。文六ぶんろくちゃんは黙だまっているからわからないが、心こころの中なかはもう狐きつねになってしまっているかもしれないわけだ。

おなじ月夜つきよで、おなじ野中のなかの道みちでは、誰だれでもおなじようなことを考かんがえるものです。そこでみんなの足あしはしぜんにはやくなりました。

ぐるりを低ひくい桃ももの木きでとりまかれた池いけのそばへ、道みちが来きたときでした。子供こどもたちの中なかで誰だれかが、

「コン」

と小ちいさい咳せきをしました。

ひっそりして歩あるいているときなので、みんなは、その小ちいさい音おとでさえ、聞ききおとすわけにはゆきませんでした。

そこで子供こどもたちは、今いまの咳せきは誰だれがしたか、こっそり調しらべました。すると――文六ぶんろくちゃんがしたということがわかりました。

文六ぶんろくちゃんがコンと咳せきをした! それなら、この咳せきにはとくべつの意味いみがあるのではないかと子供こどもたちは考かんがえました。よく考かんがえて見みるとそれは咳せきではなかったようでした。狐きつねの鳴声なきごえのようでした。

「コン」

とまた文六ぶんろくちゃんがいいました。

文六ぶんろくちゃんは狐きつねになってしまったと子供こどもたちは思おもいました。わたしたちの中なかには狐きつねが一いち匹ひきはいっていると、みんなは恐おそろしく思おもいました。

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