← Library‹ 少女地獄 殺人リレー 第四の手紙

大変たいへんな事ことが起おこったのよ。智恵子ちえこさん。あたし、死なくなったツヤ子こさんとおんなじお手紙てがみを貴女きじょに書かくわ。

あたし近ちかいうちに殺ころされそうなの。

新高にいたかさんが妾めかけのバスケットの中なかからツヤ子こさんの手紙てがみを発見はっけんしたらしいのよ。新高にいたかさんはソンナ事ことをオクビにも出ださないんですけどね。何なんだか心こころの底そこにヨソヨソしい処ところが出来できて来きたようなの。そのクセ妾めかけを可愛かわいがる事ことは前まえよりもズット強つよくなったから変へんじゃないの。おれ達たちは幸福こうふくだ、幸福こうふくだってこの頃ごろ、急きゅうに言いい出だしたからおかしいじゃないの。何なんかわけがあると思おもわずにはいられないのよ。まだ一緒いっしょになってから一いち週間しゅうかんも経たたないのにさあ。

そればっかりじゃないの。きのうコンナ事ことがあったの。夜よるの九きゅう時じの折尾おりお行いきに乗のって行いく途中とちゅうの事ことなのよ。

妾めかけたちのミナト・バスでもバス代かわりに一いち九きゅう三さん二に年ねん型がたのシボレーのオープンを使つかっているの。そのシボレーの折尾おりお行いきが例れいの通とおり満員まんいんしちゃったので、妾めかけがステップに立たって、新高にいたかさんが運転うんてんして行いくうちに、妾めかけはフッと気きが付ついて、筥崎はこざきの踏切ふみきりを出でると直すぐにダンマリで後部リーヤのスペヤタイヤの横よこにまわって、荷物にもつを乗のせるデッキの上うえに立たっていたの。

夜よるの九きゅう時じ頃ころよ。小雨こさめが降ふって真暗まっくらだったわ。

そうしたら多々羅たたらの村むら中ちゅうの狭せまい処ところで、向むこうからバスが来きたと思おもうと、急きゅうにスピードをかけた新高にいたかさんが、ハンドルをものすごくグーッと左ひだりに取とって、道傍みちばたの電柱でんちゅうにスレスレに走はしり抜ぬけて行いったの。万一まんいち妾めかけがモトの通とおり前まえの左側ひだりがわのステップに立たっていたらキット払はらい落おとされてぐたぐたにタタキ付つけられたに違ちがいないのよ。

妾めかけゾオッとしちゃったわ。ツヤ子こさんの手紙てがみを見みられた事ことが、その時ときにハッキリとわかったのよ。わかり過すぎて髪かみの毛け一いち本ほん一いち本ほんが逆立さかだちしたくらいだったわ。

そうしたら新高にいたかさんはまた、間まもなく松崎まつざきの広ひろい下くだり坂ざかで、鉄砲てっぽう玉たまのようなスピードになった時とき、向むこうから来きた自転じてん車しゃを除のけるふりをしいしいギューッと左ひだりに取とって、車体しゃたいの左側ひだりがわを、あぶなく松まつの樹きにコスリ付つけながら飛とばして行いったの。その時ときに妾めかけはまたハッキリと新高にいたかさんが妾めかけを殺ころそうとしている事ことを感かんじたのよ。

けれども、ちっとも手応てごたえがない上うえに、妾めかけがウンともスンとも言いわないもんですから、新高にいたかさんは不思議ふしぎに思おもったらしいの。香椎かしいの踏切ふみきりの前まえに来くると運転うんてん台だいから、

「オーイ。トミちゃん」

と呼よぶじゃないの。

「ハアイ」

て妾めかけ、後部こうぶから出来できるだけ朗ほがらかな声こえで返事へんじして遣つかったら直すぐに、

「……馬鹿ばかア……前まえへ来こないかア……汽車きしゃを見みてくれい。十じゅう時じ一いち分ふんの上のぼりが来くる頃ころだあ」

て言いい言いいスピードを落おとしたの。妾めかけはモウ一いち度ど朗ほがらかに、

「ハアイ」

って返事へんじしいしい前まえの踏切ふみきりに馳はせけ出だして、

「汽車きしゃオーライ」

って両手りょうてを上あげたの。あそこは家いえの蔭かげから急きゅうに鉄道てつどう踏切ふみきりに乗のり上あげるばっかりじゃない。午後ごご八はち時じ過すぎは踏切ふみきり番ばんがいないので、慣なれないトラックが二に、三さん度ど引ひっかけられた事ことのあるトテモあぶない処ところなのよ。新高にいたかさんはチャント汽車きしゃの時間じかん表ひょうを知しっていて、御ご自慢じまんのナルダンの腕うで時計とけいを見みい見みい運転うんてんして来きて、大丈夫だいじょうぶと思おもったら、妾めかけが「オーライ」と車くるまの中なかから言いっただけで一気いっきに突つき抜ぬける処ところなのよ。それにこの時ときに限かぎって御ご念入ねんいりにスピードを落おとして妾めかけを呼よぶんですから妾めかけ、おかしくなっちゃったわ。

香椎かしいでお客きゃくが三さん人にん降おりたので、妾めかけはビッショリ濡ぬれたまままた、運転うんてん台だいに新高にいたかさんと並ならんで坐すわったのよ。けども新高にいたかさんは別べつに何なんも言いわなかったわ。ただ、

「寒さむかったろう」

とタッタ一言ひとこと、低ひくい声こえで言いった切きりステキなスピードを出だして、香椎かしいから一いち時間じかん足たらずのうちに折尾おりおに着ついたの。そうして二人ふたりしてボデーを洗あらう間ま、一言ひとことも言いわないまんまで家いえへ帰かえって、やはり黙だまりこくって二人ふたりでお酒さけを飲のむ間まじゅう、睨にらみ合あいみたいになっていたの。新高にいたかさんは、いつも無口むくちなんですけど、この時ときばっかりは特別とくべつに、何なんともカンとも言いえない変へんな工合ぐわいだったのよ。

そうしたら新高にいたかさんがイヨイヨ寝ねる段だんになったら、お酒さけがまわったせいもあるでしょう。ダシヌケにいろんな冗談じょうだんを言いい出だしたの。それは無口むくちの新高にいたかさんに全まったく似合にあわない冗談じょうだんだったの。下したは乞食こじきから、一番いちばん上うえは将軍しょうぐん様さままでいろんな階級かいきゅうの人ひとのラブシーンを、新派しんぱや歌舞伎かぶきのいろんな俳優はいゆうの声色こわいろを使つかってやったりするの。それは上手じょうずで面白おもしろかってよ。新高にいたかさんにあんな芸当げいとうがあるとは思おもわなかったわ。ですから妾わたしも思おもわず釣つり込こまれて、腹はらを抱かかえて笑わらってしまったのよ。

けれども、それがまた、今朝けさになってみたら、何なんもかも空からっぽになったような気きがするの。人間にんげんの気持きもちって妙みょうなものね。こうして一日ついたち、仕事しごとを休やすまして貰もらって、まだ降ふっている嵐あらし模様もようの雨あめ越ごしに、向むかい家かの屋根やねのペンペン草くさだの、ずっと向むこうに並ならんで揺ゆれているポプラの並木なみきだの、下くだり列車れっしゃから吹ふき散ちって行いく黒くろい烟けむりだのを見みていると、それがみんな妾めかけの運命うんめいみたいに思おもわれて来きて、考かんがえても考かんがえても考かんがえ切きれない、淋さびしい淋さびしい気持きもちになって来くるの。

すぐ眼めの下したのトタンの屋根やねをバタバタとたたいて行いく雨あめの音おとを聞きいていると、ツイ眼がんの中なかに熱あつい涙なみだが一いちパイ溜たまって、死しぬほどつまらない、張合はりあいのない気持きもちになってしまうの。こんな情なさけない、悲かなしい妾めかけの気持きもちは智恵子ちえこさんに訴うったえるほかないわ。何なんとかしなければならないと思おもいながら、どうにもならないじゃないの。

妾めかけ、タッタ今いま、死しんだツヤ子こさんの形見かたみの手紙てがみを焼やいたばかりのところなの。ツヤ子こさんのアノ恐おそろしい手紙てがみを焼やきたいばっかりに今日きょう一日ついたち休やすまして貰もらったようなもんよ。

何なんもかも運命うんめいよ。

運命うんめいにまかせるよりほかに仕方しかたがないわ。神かみ様さまなんてこの世よにないんですから。

智恵子ちえこさん。ミジメなトミ子このために泣ないてちょうだい。

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