← Library‹ 少女地獄 殺人リレー 第五の手紙

智恵子ちえこさんありがとうよ。

妾めかけがコンスイしているうちに、お見舞みまいに来きて下くだすったんですってね。綺麗きれいな花はなを沢山たくさんにありがとう。まだ妾めかけの枕元まくらもとに咲さきほこっていますわ。感謝かんしゃしますわ。

あたし、あれから一いち週間しゅうかんというもの何なんも知しらなかったのよ。高たかい熱ねつのためにウンウン言いっていたんですって。頭あたまのマン中ちゅうの骨ほねが割われて、それが悪わるくなりかけて出でた熱ねつなんですって。七なな針はりとか縫ぬったのをまたほどいて、洗あらい直なおしたんですって。

どうして助たすかったんだか妾めかけにもハッキリわからないのよ。でもこの頃ごろになって、一人ひとりで起おきたり坐すわったり出来できるようになったら、すこしずつ思おもい出だして来きたようよ。

何なんでもこの前まえに貴女きじょにお手紙てがみ書かいてから間まもなくの事ことよ。いつもの通とおり新高にいたかさんと妾めかけのバッテリでシボレーに乗のって、博多はかたから折尾おりおへ行いく途中とちゅう十じゅう時じ半はんチョット前まえと思おもう頃ころ、香椎かしいの踏切ふみきりにかかったの。ヒドイ吹ふき降ぶりで一人ひとりもお客きゃくのない晩ばんだったわ。二百にひゃく二十はつ日かか二十にじゅう一いち日にちの晩ばんでしたからね。

踏切ふみきりにかかる少すこし前まえで、左側ひだりがわの松まつと百姓ひゃくしょう家かの間あいだから上のぼり列車れっしゃの長ながい長ながいアカリがグングン走はしって来くるのが見みえたんですけど、妾めかけは平気へいきで、

「……汽車きしゃアオーラアーイ」

って長ながく引ひっぱって叫さけんだようよ。

なぜソンナに恐おそろしい嘘言うそをついたのか、その時ときの気持きもちがどうしてもわからないんですけど、真暗まっくらな雨風あめかぜの中なかをすごいスピードで走はしる自動じどう車しゃの中なかで、すっかり憂鬱ゆううつになっていた妾めかけが、新高にいたかさんと一緒いっしょに死しんだ方ほうがいいような気持きもちになっていたせいでしょう。

その列車れっしゃは熊本くまもととか鹿児島かごしまとかから出でた臨時りんじ列車れっしゃで、満州まんしゅうに行いく団体だんたいの人ひとを一いちパイに乗のせていたんですって。ちょうど博多はかた発はつ、上のぼり十じゅう時じ一いち分ふんの終しゅう列車れっしゃが通とおり過すぎたばかりの処ところでしたから、十じゅう一いち時じの下くだり列車れっしゃばかりを用心ようじんしていた新高にいたかさんは、妾めかけの言いう事ことを本当ほんとうにしたんでしょう。思おもい切きりスピードを出だして踏切ふみきりを突とっ切きって国道こくどう沿そいに右手みぎてへ急きゅうカーブを切きろうとしたの。そのテイルのデッキに列車れっしゃのライフ・ガードが引ひっかかって、逆ぎゃくトンボ返がえりにハネ飛とばされて、タイヤを上うえにして堤どての下したへ落おちていたって言いう話はなしよ。

新高にいたかさんは、厚あつい硝子がらすの破片はへんが脇腹わきばらの中なかへ刺ささってモグリ込こんだために、手当てあてが間まに合あわなかったんですって。列車れっしゃの後部こうぶ車掌しゃしょうの加古川かこがわさんて言いう人ひとが馳はせけ付つけて来きて、背後うしろから抱だき起おこした時ときに、ウッスリ眼がんを開ひらいて、息苦いきぐるしい声こえで、

「シマッタ。ヤラレタ……ツヤ子この怨うらみだ……畜生ちくしょう……ツヤ子こだ、ツヤ子こだ、ツヤ子こだ」

って言いった切きりコトキレたって言いう話はなしよ。その後部こうぶ車掌しゃしょうの加古川かこがわさんがワザワザ妾めかけを見舞みまいに来きて話はなして下くだすったの。

そのお話はなしを聞きいた時ときに、妾めかけは思おもわずニッコリ笑わらっちゃったわ。身体からだ中ちゅうの血ちがスウーと暖あたたかくなって、今いまにもかけ出だせそうな元気げんきで一いちパイになってしまったわ。新高にいたかさんはツヤ子こさんの仇敵かたきを妾めかけに取とられた事ことをハッキリとわかって死しんだんですからね。

そう思おもうと妾めかけは、涙なみだがアトカラアトカラ流ながれて困こまっちゃったわ。何なんも知しらない加古川かこがわさんと看護かんご婦ふさんが、スッカリ同情どうじょうしちゃってね。いろいろ慰なぐさめて下くだすったんですけど何なんもなりゃしないわ。妾めかけは神かみ様さまに感謝かんしゃして喜よろこんで泣ないているのに、悲かなしんではいけない、身体しんたいに障さわる障さわるって言いうんですもの。妾めかけその時ときにツクヅク思おもったわ。女おんななんて滅多めったに慰なぐさめて遣やるもんじゃないって。何なんを泣ないているか知しれたもんじゃないんですからね。

その車掌しゃしょうさんと看護かんご婦ふさんの話はなしを聞きくと、妾めかけはメチャメチャになったボデーの下したに伏ふせられて、顔かおをシッカリと両手りょうてで隠かくして、手足てあしをマン丸まるく縮ちぢめていたので、みんな感心かんしんしたって言いう話はなしよ。キット衝突しょうとつする前まえから、そうしていたのでしょう。

昨日きのう臨床りんしょう訊問じんもんて言いうのがあったのよ。警察けいさつだの裁判さいばん所しょの人ひとらしいイカツイ顔かおをした人ひとが五、六ごろく人にん妾めかけの寝台しんだいの廻まわりを取とり巻まいていろんな事ことを質問しつもんするの。ずいぶん怖こわかったわ。

妾めかけが大おおきな声こえでストップって言いったけど新高にいたかさんが構かまわずに踏切ふみきりを突とっ切きったって言いったら、皆みなうなずいていたわ。新高にいたかさんのイツモの運転うんてんぶりを知しっていたのでしょう。香椎かしいの踏切ふみきりには自動じどう信号しんごう機きが是非ぜひとも必要ひつようだなんて話はなし合あっていたわ。

新高にいたかさんと内縁ないえん関係かんけいがあるという話はなしだが、ホントウかって鬚ひげの生はえた人ひとが聞きいたから、妾めかけ、ありますって言いってやったの。顔かおも何なんも赤あかくならなかったと思おもうわ。皆みな顔かおを見合みあわせて笑わらっていたようよ。そうしたら四十よんじゅうぐらいの刑事けいじ巡査じゅんさらしい、色いろの黒くろい骸骨がいこつみたいな男おとこが、凹くぼんだ眼めを大おおきくギョロギョロさせながら、

「夫婦ふうふ心中しんちゅうじゃないか」

って言いったの。そうして白しろい歯はをむき出だして笑わらったから妾めかけギョットしちゃったわ。でも妾めかけ、頑固がんこに頭あたまを振ふったもんだから、間まもなくみんな帰かえって行いったわよ。

刑事けいじなんて案外あんがいアタマのいいものね。その刑事けいじの顔かおを思おもい出だしてもドキンとするわ。

妾めかけ、神かみ様さまに感謝かんしゃしているのよ。ヤケクソの妾めかけが一緒いっしょに死しぬつもりでオーライって言いったのに、新高にいたかだけ殺ころして、妾めかけだけ助たすけて下くだすったんですもの。

あたし頭あたまの怪我けががなおったらまた、ミナト・バスへ出でて女じょ車掌しゃしょうをつとめるわ。そうして今度こんどこそ一生いっしょう止とめないわ。そうして女じょ運転うんてん手しゅになるわ。日本にっぽん一いちの女おんな運転うんてん手しゅに……。妾めかけこれは神かみ様さまの命令めいれいだと思おもっているの。

結婚けっこんなんか一生いっしょうしないわ。妾めかけは最早もう、女おんなの一生いっしょうの分ぶんぐらい何なんもかもわかっちゃったんですからね。新高にいたかさんが生いき返かえって来こない限かぎり、ほかの男おとこの人ひとには用ようはないつもりよ。

新高にいたかさんの事ことがその時ときの新聞しんぶんに大おおきく出でていたわ。「恐おそるべき色魔しきまの殺人さつじんリレー」って言いう標題ひょうだいでね。死しんだ新高にいたか運転うんてん手しゅは、東京とうきょうの青あおバスを出でてから後あとズットお尋たずね者ものになっていた女殺おんなごろしの嫌疑けんぎ者しゃだった事ことが、死しんだアトからわかったんですって。そうして新高にいたかは東京とうきょうでも一いち度どトラックと正面しょうめん衝突しょうとつをして、コチラの女おんなの助手じょしゅが即死そくししたのに、自分じぶんだけ不思議ふしぎに助たすかった事ことがあるが、その時ときの説明せつめいのし方かたがよかったお蔭かげで無事ぶじに放免ほうめんされた経験けいけんの持もち主ぬしである。だから今度こんどもホントウは内縁ないえん関係かんけいの女おんな車掌しゃしょうと一緒いっしょに自動じどう車しゃを汽車きしゃに轢ひかして、自分じぶんだけ飛とび降おりるつもりだったかも知しれないって書かいてあったわ。智恵子ちえこさんも多分たぶん、お読よみになったでしょう。

アレみんなウソよ。新聞しんぶん社しゃと警察けいさつの作つくり事ごとよ。妾めかけに同情どうじょうし過すぎているのよ。会社かいしゃでも大層たいそう、妾めかけの身みの上うえに同情どうじょうしているそうよ。おかしいわね。

でも妾めかけ、平気へいきよ。世よの中なかってソンナもんよ。神かみ様さまの裁判さいばんだけが正ただしいのよ。

ですから、あたし智恵子ちえこさんだけにホントの事ことをお知しらせするわ。

これから後あとドンナ事ことがあっても女じょ車掌しゃしょうなんかになっちゃ駄目だめよ。

妾めかけみたいな女おんなになっちゃダメよ。

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